副題は「草原に記憶をたどって」。
北海道大学を卒業して鉄道ジャーナル社「旅と鉄道」の編集などに携わった著者が、北海道各地に残る廃線跡をたどったドキュメンタリー。過去の旅の記憶も描かれ、歳月の経過を強く感じさせる。
登場するのは、天北線、深名線、標津線、広尾線、胆振線、岩内線、湧網線など計21の路線。こんなに多くの路線が廃止になったのかという驚きとともに、こんなに隅々まで鉄路を敷いた明治〜昭和期の人々の情熱が胸にしみる。
北海道というとラーメンを思い浮かべる方が多いだろうが、実は北海道が日本一の生産量を誇るそば王国≠ナあることは意外と知られていない。日本の国産そばの四割を北海道が占めている。
鉄道は単なる交通手段ではない。そこには人々の生活があり、歴史があり、出会いや別れの人生の記憶が凝縮されている。駅はそのシンボルで、情報の集散地、コミュニケーションの場であった。
昭和三〇年代炭鉱の最盛期、夕張市の人口は一一万六〇〇〇を数えた。市内に鉱山は二四ヵ所、鉄道は二二駅あり、高校は七校、映画館は一六館。炭住ではひねもす煙が昇り、繁華街では終夜営業のバーやキャバレーがさんざめいていた。
鉄道王国が築かれた北海道だったが、今や「廃線王国」となってしまった。最盛期の昭和三〇年代に四一〇〇キロあった北海道の路線だが、現在残るのは二四〇〇キロ、ほぼ四割が消滅している。
「北海道鉄道路線図(鉄道発祥から現在まで)」というサイトを見ると、1880年から2025年までの路線の消長をたどることができる。
江差線や留萌本線は北海道に住んでいた頃に乗ったことがある路線なので懐かしい。江差や天売島・焼尻島は今どんなふうになっているのだろう。
2022年5月15日、筑摩選書、1700円。