
「うた新聞」2020年4月号から2024年5月号まで計50回にわたって連載された文章をまとめた本。短歌の助詞・助動詞を愛する著者が、具体的な例歌を引きながら「てにをは」の精妙な働きについて記している。
高校の国語教師として古文の文法なども教える著者であるが、そうした学校での公式的な説明を超えて、自らの経験をもとにさらに突っ込んだ話を展開している。
柊二にとって「たたかひ」は自分に関わりのない他人事ではない。同時に、その帰趨を主体的に決められる現象でもない。彼の身体は「たたかひの終りたる身」でもなく「たたかひを終へたるわが身」でもない。宙ぶらりんで、置き所のない「たたかひを終りたる身」だったのである。
「信頼」のような、「信じる」(他動詞)と「頼る」(自動詞)が混合した漢語の場合、「信」に重きを置いて助詞「を」を入れるか、「頼」に重きを置いて助詞「に」とするか、悩ましい。
現在、目の前で進行してゆく事態をどう捉えるべきなのか。現在進行形という西欧語伝来の時制表現を、従来の文語体系のなかでどう表現したらいいのか。圧倒的な西欧語の流入に際会して、近代の歌人たちは、そのような悩みのなかにいたのだろう。
50項目それぞれの題もおもしろい。
・やる気のない「て」
・憧れの「らむ」
・いまいましさの「など」
・不安の滲む「む」
・勢いの「も」
・一回性の「と」
・自己志向的な「の」
など、無味乾燥な文法の説明とは違って、実感に即した記述がなされている。長年にわたって短歌を読み、詠み続けてきた著者ならではの一冊と言っていいだろう。おススメです。
2025年3月15日、いりの舎、1800円。