森茉莉『父の帽子』や朝井まかて『類』を読んで、森鷗外の短篇「半日」が読みたくなった。
私達は、父の小説の中の一つによって永遠に、「狂人染みた女から生れた系族」という感じを受け、永遠にそれに纏わられて生きて行かなくてはならない。
/森茉莉『父の帽子』
「あれだけは全集に収めないでおくれ。どうか、私の遺言だと思って」
「わかってるよ」
そう言えど母はこだわり続ける。(…)
「お母さん、約束する。『半日』は載せさせない」
/朝井まかて『類』
「半日」は青空文庫にも入っているが、やはり紙で読みたい。全集を借りるのも面倒だなと考えていたら、初出の「スバル」1909年3月号の復刻版が家にあることに気づいた。早速、読む。
おもしろい。
「半日」は嫁姑の不仲とそれに端を発する夫婦喧嘩を描いた作品である。鷗外と妻の志げ、母峰子がモデルになっている。
或る冬の午前の家の中の様子が丁寧に細かく記されている。小説としての出来はいいと思う。
もちろん、志げにとっては愉快でなかっただろう。小説は小説であって、現実そのままではない。でも、「半日」の奥さんの描写は印象的で、それが志げのイメージを決定づけてしまったのだ。