2025年03月05日

山川徹『鯨鯢の鰓にかく』


副題は「商業捕鯨 再起への航跡」。

2007年、2008年の調査捕鯨、2022年の商業捕鯨と、三度にわたって捕鯨船に乗り込んだ著者が、捕鯨に従事する人々の姿や捕鯨のあり方について記したノンフィクション。

タイトルは「けいげいのあぎとにかく」と読む。鯨に飲まれそうになって顎に引っ掛かるような状況を意味する慣用句。

捕鯨砲で撃ったクジラをウインチで引き寄せる作業の途中、砲台に立つ平井にはクジラと目が合う一瞬がある。やがてふっと瞳から光が消える――。そのたびに自分が命を奪った現実を、実感をともなって突きつけられる。
キャッチャーボートで、てっぽうさんが特別な存在なように、大包丁も仕事ぶりを見込まれた者だけが任される、捕鯨母船の花形である。
捕鯨は日本の伝統文化――そんな主張をしばしば耳にするが、(…)船団で行う母船式捕鯨の歴史は、日本では一〇〇年に満たない。近代に興った産業を伝統文化と呼ぶにはムリがある。
二〇二〇年度の供給量は牛肉が約八二万トン、豚肉が約一六〇万トン、鶏肉が約一七〇万トン。対して鯨肉は輸入を合わせて約二五〇〇トンに過ぎない。

一昨年、共同船舶は新たな捕鯨母船「関鯨丸」を進水させた。母船式捕鯨を今後も続けるには、昭和の商業捕鯨とも、平成の調査捕鯨とも違ったやり方が求められる。

そして、鯨肉の需要拡大と販売価格の上昇も欠かせない。また、クジラの資源管理にも引き続き取り組む必要があるだろう。

クジラ関係ということで手に取った本だったのだが、著者は以前読んだ『カルピスをつくった男 三島海雲』の人であった。
https://matsutanka.seesaa.net/article/498940434.html

「おわりに」に、著者が写真家の市原基から言われた言葉が記されている。

「山川、フリーランスにとって、本は墓標みたいなものだ。これから墓標を建てるつもりで取材して、本を書け……」

なるほど、確かにそうだよなあと思う。これは歌人にとっても、きっと同じことだろう。

2024年10月2日、小学館、1800円。

posted by 松村正直 at 13:17| Comment(0) | 鯨・イルカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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