2025年03月03日

山中千瀬歌集『死なない猫を継ぐ』


第1歌集。

暴力から生まれた暴力太郎から生まれた暴力太郎太郎、あたしは
花のくき手折れば爪に花のにおい 花のたましいがどこにあろうと
先生が森さんを海(モーリェ)さんと呼ぶ 教室はさざなみに洗われる
サーカスは黙って行ってしまった。置いていかれた町で暮らした
すれ違いを続けるあたしの人生と郵便局の営業時間
枝分かれした運命のいくつかのピーマンだけが具のナポリタン
花を火の比喩として手に集まって交わす世界を燃やす約束
水筒のみずぬるくなり放課後の教室、ともだちごっこはだるい
たわいないこころのささえ なし狩りの梨がとってもぬるかったこと
いい桃を分けてもらって持ち帰る 友だちの心臓を運ぶみたいに

1首目、虐待の連鎖をイメージした。名前が増殖するようでこわい。
2首目、花びらや蕊だけでなく茎からも花の匂いがするという発見。
3首目、「モーリェ」はロシア語で海のこと。下句への展開がいい。
4首目、空き地などで興行していたサーカスが去った後のさびしさ。
5首目、「すれ違い」と捉えたのが面白い。平日の昼には行けない。
6首目、あみだくじのような事情を経て玉ねぎもウインナーもない。
7首目、手に手に花火を持って話している。上句の表現が印象的だ。
8首目、表面上の付き合いを続ける気怠さが水のぬるさと響き合う。
9首目、結句に意外性がある。木からもぎ取ったままの自然な温度。
10首目、上句の「も」の連鎖から下句の個性的で鮮やかな比喩へ。

2025年1月20日、典々堂、1800円。

posted by 松村正直 at 08:59| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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