第1歌集。
暴力から生まれた暴力太郎から生まれた暴力太郎太郎、あたしは
花のくき手折れば爪に花のにおい 花のたましいがどこにあろうと
先生が森さんを海(モーリェ)さんと呼ぶ 教室はさざなみに洗われる
サーカスは黙って行ってしまった。置いていかれた町で暮らした
すれ違いを続けるあたしの人生と郵便局の営業時間
枝分かれした運命のいくつかのピーマンだけが具のナポリタン
花を火の比喩として手に集まって交わす世界を燃やす約束
水筒のみずぬるくなり放課後の教室、ともだちごっこはだるい
たわいないこころのささえ なし狩りの梨がとってもぬるかったこと
いい桃を分けてもらって持ち帰る 友だちの心臓を運ぶみたいに
1首目、虐待の連鎖をイメージした。名前が増殖するようでこわい。
2首目、花びらや蕊だけでなく茎からも花の匂いがするという発見。
3首目、「モーリェ」はロシア語で海のこと。下句への展開がいい。
4首目、空き地などで興行していたサーカスが去った後のさびしさ。
5首目、「すれ違い」と捉えたのが面白い。平日の昼には行けない。
6首目、あみだくじのような事情を経て玉ねぎもウインナーもない。
7首目、手に手に花火を持って話している。上句の表現が印象的だ。
8首目、表面上の付き合いを続ける気怠さが水のぬるさと響き合う。
9首目、結句に意外性がある。木からもぎ取ったままの自然な温度。
10首目、上句の「も」の連鎖から下句の個性的で鮮やかな比喩へ。
2025年1月20日、典々堂、1800円。