2021年に文藝春秋社から刊行された単行本の文庫化。
・『中野のお父さん』
https://matsutanka.seesaa.net/article/462601696.html
・『中野のお父さんは謎を解くか』
https://matsutanka.seesaa.net/article/484549087.html
「中野のお父さん」シリーズ第3弾。今回取り上げられるのは、大岡昇平、古今亭志ん生、小津安二郎、瀬戸川猛資、菊池寛、古今亭志ん朝。文学の謎だけでなく、落語や映画の話も出てくる。
詩歌にも詳しい作者なので、菊池寛の学生時代の短歌「我が心破壊を慕ひ一箱のマッチを凡(す)べて折り捨てしかな」に関して次のような父と娘のやり取りがある。
「勿論、実際、ポキポキ折ったわけじゃないだろう。しかし、こういう時の、譬(たと)えに使うのに《マッチ》は、持って来い――だな。(…)」
美希も、無論、マッチがどういうものか知ってはいる。しかし少なくとも、この一年、使ったことはない。
「やり場のないいらいら。今の子なら、一本の歯磨きを、《えいやっ》と、すべてひねり出す方が――分かりますかねえ」
この歯磨きの話は、もちろん穂村弘の歌を踏まえているのだろう。
「猫投げるくらいがなによ本気だして怒りゃハミガキしぼりきるわよ」
穂村弘『シンジケート』
このシリーズ、単行本ではもう第4弾が出ているようだ。
2024年11月10日、文春文庫、730円。