2025年02月20日

小俵鱚太歌集『レテ/移動祝祭日』


「短歌人」「たんたん拍子」所属の作者の第1歌集。
2018年から2024年までの作品374首を収めている。

しなくても良い前泊に夜の窓あけてビジネスホテルの季節
猫老いて店主も老いてどちらかが死ぬまでつづく瀬戸物屋さん
ベランダの夜にやもりと佇んでたがいに気付かぬ振りをしていた
満月を半月にする夜行バス 6Pチーズをつぎつぎ食べて
商談をコメダですれば豆菓子は食べず互いにかばんへ入れて
ひとりでいるときのわたしを私だとおもう師走に独りで居れば
気がつけば小説だったというような雨がそのうち本降りになる
でたらめに路地を歩いて川に出れば川に沿いたい初夏のこころは
だとしても。ごく軽度だとぽつぽつと毀れた家族がはま寿司にいる
地下なのにスロープがある 何もかも思い通りになんてならない

1首目、当日の朝に出ても間に合うのに前泊する。自分だけの時間。
2首目、時が止まったような店であるが、それも永遠には続かない。
3首目、まるで同志のように何も言わなくても心が通じ合っている。
4首目、上句から下句への展開が楽しい。3個食べ終わったところ。
5首目、商談の席ではコーヒーに付く豆菓子はちょっと食べにくい。
6首目、独りの時が一番自分らしいと感じる。寂しさと自負が滲む。
7首目、上句の比喩がおもしろい。小説と現実が入り混じるような。
8首目、でたらめに歩く楽しさ。歩くことで自分の心に気付くのだ。
9首目、離れて暮らす幼い娘の障害の話。「はま寿司」がせつない。
10首目、情と景の取り合わせ。両側から掘り進めて生じた高低差。

2024年7月15日、書肆侃侃房、2200円。

posted by 松村正直 at 15:02| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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