堀合節子が石川啄木と出会って結婚し、さまざまな苦労を重ねながら亡くなるまでを描いた評伝。節子の未発表書簡の引用もあり、啄木全集からは見えてこない節子の心情が浮き彫りになっている。
数多くのノンフィクション作品を手掛けた著者の筆力ならではの一冊と言っていいだろう。読みやすく、ぐいぐい引き込まれる。そして、中身も濃い。
「吾望みのすべては君なり」という節子の手紙は、孤独な窮地にいる啄木の心を甘く揺らし涙を誘った。しかし活路はどこにも見出せず、敗残者として心萎えたと伝えるには重すぎる、枷のような信頼と讃美の恋文でもある。
この歌が詠まれる現実的な情景は小樽のこの朝のほかにない。そして常に啄木の歌よりは現実の世界の方がはるかに苛酷である。
「古今を通じて名高い人の後には必ず偉い女があつた事をおぼへて居ます。私は何も自分を偉いなどおこがましい事は申しませんが、でも啄木の非凡な才を持てる事は知つてますから今後充分発展してくるやうに神かけていのつて居のです」
啄木の没後に日記を焼却せず、多くの遺稿とともに整理・保存した節子は、後に啄木が世に知られるようになる立役者と言っていいだろう。27歳で亡くなった節子に対する著者の心寄せも胸に沁みる。
1981年5月12日、講談社、980円。