2024年12月14日

伊藤一彦『若山牧水の百首』


歌人入門シリーズの11冊目。
副題は「自然に漂う未来の人」。

牧水の歌100首の鑑賞と解説「未来の人」を収めている。牧水の書簡や随筆、妻喜志子の短歌なども引きながら、要所を押さえた鑑賞を行っている。また、誰がその歌を見出したのかに関する言及の多いことも特徴だ。

この歌を取りあげて解釈と鑑賞を行ったのは俵万智著『牧水の恋』が初めてである。
この歌を取りあげたのは馬場あき子以外にはいない。
白鳥の歌に優るとも劣らぬこの一首を見つけて推賞したのは佐佐木幸綱である。

その歌を最初に取り上げた人というのは、確かに大事な話だと思う。

生涯にわたって旅した牧水は岬を特に愛した。長女の名前を「みさき」と名づけている。
牧水には女体を歌った作品が少なくない。エロスの歌人でもある。
牧水は古典和歌の歌人のなかで西行を最も愛していた。
牧水は聴覚のすぐれた人だった。幼少期から谷川の音を聴き、鳥の声に耳を澄ましてきた。

牧水の生まれた宮崎に住み、牧水に関する本も多く出している著者だけに、こんなふうに牧水の特徴を次々といくつも挙げている。

藻草焚く青きけむりを透きて見ゆ裸体(はだか)の海女と暮れゆく海と/『独り歌へる』
草ふかき富士の裾野をゆく汽車のその食堂の朝の葡萄酒/『別離』
飲むなと叱り叱りながらに母がつぐうす暗き部屋の夜の酒のいろ/『みなかみ』
きゆうとつまめばぴいとなくひな人形、きゆうとつまみてぴいとなかする/『みなかみ』
昼は菜をあらひて夜はみみづからをみな子ひたる渓ばたの湯に/『くろ土』

牧水の歌をあらためて読み直してみたくなった。

2024年9月1日、ふらんす堂、1700円。

posted by 松村正直 at 07:33| Comment(2) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最後の歌、何で蚯蚓が出てくるんだろう(ナメクジならまだ分かるが)、ひょっとして衍字か??などいろいろ考えたのですが、「身みづから」という言い方があったようですね。自己完結短文失敬しました。
Posted by 小竹 哲 at 2024年12月14日 18:46
小竹さん、コメントありがとうございます。
「みみづから」は私も最初??となりました。聞いたことのない言い方でしたが、広辞苑には載ってますね。ちなみに蚯蚓は旧かなでも「みみず」のようです。
Posted by 松村正直 at 2024年12月14日 21:18
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