副題は「都市としての歴史をたどる」。
第一章「紀元前〜鎌倉前期」、第二章「鎌倉中期〜室町後期」、第三章「近世」、第四章「近代」と時代をたどりながら、鎌倉の町の変遷や人々の動向を描いている。
タイトルに「幻想の都」とあるのは、鎌倉にはかつての武家政権に関する史跡は残っておらず、人々の鎌倉に寄せる郷愁や知識によって「古都鎌倉」のイメージが形作られてきたという意味である。
現在の鶴岡八幡宮は純然たる「神社」であるが、これは明治時代の神仏分離によって仏教色が一掃された後の姿である。明治以前には、「鶴岡八幡宮寺」という名称もあり、寺院と神社が一体となった「神仏習合」の形態をとっていた。
鎌倉の港として、もう一つ忘れてはならないのが、六浦の港である。(…)天然の良港を備えた六浦は、鎌倉とは朝比奈峠を越える陸路で結ばれ、鎌倉の外港として重要な位置を占めていた。
鎌倉の主こそが関東の支配者であるという観念が、当時の人々のあいだに広く存在していたとみられる。関東の戦国大名にとって、鎌倉や鶴岡八幡宮の存在は、勢力拡大の大義名分のために無視できない魅力を持っていたのである。
横須賀線の開通は、東京から鎌倉への観光客の利便を図るためのものではなかった。軍事的に重要性を増していた横須賀と東京を連絡することが、主な目的であった。
先日読んだ司馬遼太郎の『街道をゆく42 三浦半島記』と内容的に重なる記述もけっこう出てきた。読書はそんなふうに連鎖するから楽しい。
2022年5月30日、光文社新書、820円。