初出は「週刊朝日」1995年3月24日号〜11月10日号。
三浦半島を歩いて、各地の地理や歴史について語っていく。主な舞台は鎌倉と横須賀で、源頼朝、三浦義明、畠山重忠、和田義盛、鎌倉景政、小栗上野介、勝海舟、旧日本海軍の軍人などが出てくる。
ユンカーやジェントリー、そして平安末期の武士たちに共通しているのは、領有する地名を名乗っていること、戦陣には領地の若者をひきいてゆくこと、それに家紋をもっていることである。
後白河法皇は、稀代の政略家だったというほかない。古来、分を越えて官位を得る者は暴落するという考え方が京にあり、一方、没落させたいと思う相手には、官位をその相応以上に与えたりすることがあった。官打ち≠ニよばれた。
鎌倉幕府は、もともと頼朝と北条氏の合資会社で、頼朝の死後は、北条氏に権力が移るべくして移ったとみるほうが自然である。奇妙なことに、頼朝の血流が絶えてからのほうが、政権が安定した。
大正から昭和初年にかけて、海軍士官の多くは、鎌倉や湘南地方に住んだ。たとえば、日露戦争における日本海海戦の作戦を担当した少佐秋山真之も、その若い晩年、逗子に住んだ。
三浦半島は大きくないが、西の伊豆半島や東の房総半島と海上交通でつながっており、また近世以降は東京湾への入口に当たる地理的環境もあって、日本史で大きな役割を果たしてきた。
司馬遼太郎の縦横無尽の筆致が楽しい。
2009年5月30日第1刷、2024年2月28日第8刷。
朝日文庫、760円。