大木(たいぼく)の幹の間ほそきひかりさし光の幅に霧はかがやく/『黙契』
茫然と机に居ればをりふしの風に灰皿の灰うごきをり/『雉』
水槽に降り込む雪は水の輪のなかにしばらくかたちを保つ/『湧井』
冬樹々のかげこまやかにうつる池かげの投網(とあみ)のなかに鯉ゐる/『照徑』
三四二は『短歌一生』の中でも、繰り返し佐太郎に言及している。
私は初学のころより斎藤茂吉に惹かれ、かさねて、『帰潮』を機に佐藤佐太郎に親炙して今日にいたっているが、(…)佐藤氏に受けた影響の大きさは門下の人々におとるとは思えないにもかかわらず、直接、その門をたたくことをしなかった。
佐藤氏は短歌の中で物の把握をもっとも徹底しておこなってきた人で、ここでも「風にかたむく」にその実行がある。それは実景であり、実景でなければならないが、しかしただの写生を越えたものがある。心眼と言いたいものがはたらいている。
両者の歌には似ている点も多いが、佐太郎の歌がドライであるのに対して、三四二の方はややウェットだと言えるだろう。
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