「塔」所属の作者の第1歌集。
輪郭のぱりりとかるい鯛焼きに口をあてつつ熱を食(は)みゆく
沸点がたぶんことなるひととゐる紅さるすべり白さるすべり
駅と駅をつなぐ通路の側面のひとつにて買ふ志津屋あんぱん
アイスからホットにかへて珈琲のカップを朝の両手につつむ
串刺しにまはりつづける馬たちのつやの瞳に映るひとびと
借りるね、といひあふ距離を家と呼びひるすぎの窓わづかに開ける
真冬にはしろく固まるはちみつの、やさしさはなぜあとからわかる
猪とナイロンともに植ゑられて手にかろやかな楕円のブラシ
このあたり霧が深くて。窓の外(と)の白さを見つつ看護師がいふ
あつまればこゑの厚みは増すらしく雀の群れのかたちが分かる
1首目、バリの食感とあんこの熱さ。「熱を食み」が巧みな表現だ。
2首目、自分の沸点だけでなく相手の沸点を知っておくことも大切。
3首目、地下のの通路の側面に埋め込まれたように店が並んでいる。
4首目、季節の変化の描き方が鮮やか。手のひらに温もりを感じる。
5首目、回転木馬を串刺しと捉えると、途端に残酷な世界に見える。
6首目、一緒に暮らす、家族になるとはこういうことかもしれない。
7首目、上句と下句の取り合わせがいい。時間が経って変わるもの。
8首目、上句から下句への展開がおもしろい。猪の毛の話であった。
9首目、映画のワンシーンのような美しさ。日常とは異なる世界だ。
10首目、鳴き声を聴いていると雀らの数や位置が目に浮かぶのだ。
2024年5月27日、六花書林、2500円。
歌集を編むって本当に大変ですね。
松村さんにもいろいろとアドバイスなど頂き、本当にありがとうございました。
歌集という形にすることで改めて自分の作品を考えることになるので、いろいろ悩みましたが、貴重な経験でした。
題詠「干支」12首を読んでいて「あれっ? 鼠がないなぁ?」と思っていたら「硝子窓」に入ってました。なるほど。