2024年08月29日

早川晃央歌集『こいつら』


「コスモス」「COCOON」所属の作者の第1歌集。

デパートの屋上になお一プレイ三十円のゲーム作動す
平日の昼間の安売りスーパーに男性客は意外と多い
ローソンとナチュラルローソン向かい合い利益を競う新宿の夜
メシを食うときも辺りを気にかけるカラスのような生き方は嫌だ
飛行機の翼が塵で黒くなり空はきれいでないことを知る
見上げれば綿菓子であり見下ろせば流氷らしく雲は見えたり
松屋では機械が飯を入れておりしゃもじは飯を整えている
銭湯の男子トイレのウォシュレット無数の男の尻を洗えり
食べられるために食べさせられているフィードロットの牛の静けさ
立ち食いの蕎麦すする人を後ろから見ればお辞儀をしているようだ

1首目、かなりレトロな雰囲気の屋上遊園地。「三十円」がいい。
2首目、平日の昼間=仕事というのも一つの固定観念でしかない。
3首目、微妙に客層が違う。客単価や利益率の比較など面白そう。
4首目、他者や世間に怯えずに、安心して生きていきたいものだ。
5首目、発見の歌。澄んだ青空に見えても大気中には汚れがある。
6首目「綿菓子」はよく聞くが、「流氷」は個性的な見方だろう。
7首目、ご飯をよそうはずの「しゃもじ」が整え役になっている。
8首目、どのトイレでも同じことなのだが「銭湯」だと生々しい。
9首目、もうすぐ殺されるとは知らず肥育場で餌を食べている牛。
10首目、蕎麦を啜るたびに上下する頭に会社員の悲哀を見るか。

2024年7月11日、六花書林、2300円。

posted by 松村正直 at 08:20| Comment(3) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントの対象の歌にも番号を附っていただくと、先生のコメントの番号と対比しやすいので、読みやすくなります。
Posted by 梅田純一 at 2024年09月04日 14:38
コメントありがとうございます。
歌に番号などを付けるのはあまり好きではないのです。すみません。カルチャー講座では説明の都合で番号を付けてますが、歌だけの形が本来のものですので。
Posted by 松村正直 at 2024年09月04日 21:01
浅はかな考えで、コメントしました。
申し訳ありませんでした。
Posted by 梅田純一 at 2024年09月06日 09:40
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。