2024年08月14日

山崎雅弘『太平洋戦争秘史』


副題は「周辺国・植民地から見た「日本の戦争」」。

太平洋戦争は、日本対アメリカ(対中国、あるいは対ソ連)といった観点で語られることがほとんどだが、本書は違う。太平洋戦争において、当時の周辺国や植民地ではどのようなことが起き、人々がどのように行動したかが詳しく記されている。

取り上げられているのは、「インドシナ(フランス領)」「マラヤ・シンガポール(イギリス領)」「香港(イギリス領)」「フィリピン(アメリカ領)」「東インド(オランダ領)」「タイ」「ビルマ(イギリス領)」「インド(イギリス領)」「モンゴル」「オーストラリア・ニュージーランド・カナダ」「中南米諸国」である。

蘭印最大の都市であるジャワのバタヴィアは、オランダ人の別名である「バタヴィー」が語源だったが、日本の軍政当局は、一九四二年十二月九日付でバタヴィアを現地インドネシア呼称の「ジャカルタ」に変更した。
現地では十一世紀の王朝時代から、書き言葉の「ミャンマー」と話し言葉の「バマー」が併用されており、日本語のビルマは後者のオランダ語表記(Birma)が明治期に伝わったもので、漢字では「緬甸(めんでん)」と表記される。
日本人の視点では、日本とソ連の二つの「大国」の軍隊が草原で激突した国境紛争と思われがちなノモンハン事件だが、モンゴル側から見れば、日ソの二大国による戦闘の傍らで、異なる部族のモンゴル人が敵味方に分かれて戦った「ハルハ川戦争(モンゴル側の呼称)」という側面も存在したのである。

急速に勢力圏を拡大した大日本帝国に対して、あくまで抵抗を続けた人々もいれば、服従を余儀なくされた人々、念願の独立を果たそうと積極的に協力した人々もいる。各勢力のさまざまな思惑が入り乱れ、敵対や協力を繰り返し、やがて戦後の歴史へとつながっていく。

そうした展開が非常にダイナミックに描かれていて、ぐいぐいと引き込まれる。

大国中心の第二次世界大戦観あるいは太平洋戦争観では、望まずして戦争に巻き込まれた周辺国および植民地とその国民・住民を無視したり、周辺国や植民地を「大国の争奪対象」と見なす視点に陥る危険性があるように思います。

「まえがき」と「あとがき」に示された、こうした歴史観はとても大事なものだと思う。おススメの一冊です!

2022年8月30日、朝日新書、1200円。

posted by 松村正直 at 18:20| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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