時ちゃんが帰らなくなって今日で五日である。ひたすら時ちゃんのたよりを待っている。彼女はあんな指輪や紫のコートに負けてしまっているのだ。
飯田さんがたい子さんにおこっている。飯田さんは、たい子さんの額にインキ壺を投げつけた。唾が飛ぶ。私は男への反感がむらむらと燃えた。
私は生きていたい。死にそくないの私を、いたわってくれるのは男や友人なんかではなかった。この十子一人だけが、私の額をなでていてくれる。
もう一つ、先日読んだ頭上運搬の話も出てくる。
線路添いの細い路地に出ると、「ばんよりはいりゃせんかア」と魚屋が、平べったいたらいを頭に乗せて呼売りして歩いている。夜釣りの魚を晩選(ばんよ)りといって漁師町から女衆が売りに来るのだ。
尾道の小学校に通っていた1916〜17年頃の思い出である。まさに、三砂ちづる『頭上運搬を追って』に描かれていた通りの光景だ。