第1次世界大戦後の東京で生きる一人の女性を描いた自伝的作品。経済的に困窮して職を転々としながらも、たくましく生き抜く姿が印象的だ。
文章に勢いがあって、引用したくなる箇所がたくさんある。ところどころ啄木の短歌も出てくる。
お茶をたらふく呑んで、朝のあいさつを交わして、十二銭なのだ。どんづまりの世界は、光明と紙一重で、ほんとに朗らかだと思う。
地球よバンバンとまっぷたつに割れてしまえと、呶鳴(どな)ったところで、私は一匹の烏猫(からすねこ)だ。
夜は御飯を炊くのが面倒だったので、町の八百屋で一山十銭のバナナを買って来てたべた。女一人は気楽だとおもうなり。
私は本当に詩人なのであろうか? 詩は印刷機械のようにいくつでも書ける。ただ、むやみに書けるというだけだ。一文にもならない。活字にもならない。そのくせ、何かをモウレツに書きたい。心がそのためにはじける。
今度東京へ行く機会があれば、新宿区にある林芙美子記念館を訪ねようと思う。
2014年3月14日第1刷、2023年7月5日第6刷。
岩波文庫、1150円。