2017年に亜紀書房より刊行された単行本の文庫化。
ドキッとするタイトルと表紙の本だが中身は興味本位のものではなく、いたって真面目なノンフィクション。全国各地の殺人現場や犯人の生家などを訪ね歩きながら、事件の背景となった時代や社会や風土を考察している。
東京などの都市を中心として人と人とのネットワークは、かつてこの国の隅々にまで毛細血管のように張り巡らされていた。その末端の血管である農村が壊死しつつあるのが、今の日本の姿ではないか。
今にして思えば、同じ町に暮らしながら何の交流もなかった東北人の姿は、最近よく見かける外国人労働者の姿と重なる。日本経済が底上げされ、東北からの出稼ぎ人の代わりにアジアや南米の人々がやってきた。
海に生きた和歌山の漁民たちは鰯や鰹、さらには鯨といったさまざまな獲物を捕らえることに長け、日本各地の海辺に移住した。代表的な土地では、千葉県の外房や長崎の五島列島などが挙げられる。
麻原の一家は、九人兄弟のうち三人が目に障害を持っていた。麻原と年齢が一一歳離れた全盲の長兄は、写真家藤原新也のインタビューの中で、幼少の頃、生家近くの水路で、貝や海藻を採って食べていたことから、兄弟に眼病が多いのは水俣病によるものではないかと証言している。
この著者の執筆した他の本も読んでみたくなった。
2020年9月25日、集英社文庫、940円。