2024年07月07日

遠藤ケイ『鉄に聴け 鍛冶屋列伝』


「ナイフマガジン」1991年6月号から1997年6月号まで連載された「僕の鍛冶屋修業」を加筆・改題して文庫にまとめたもの。

全国各地の鍛冶屋を取材してきた著者が自らも鍛冶小屋を構えて修行する様子を記したルポルタージュ。

一口に刃物と言っても「鮎の切り出しナイフ」「猟刀フクロナガサ」「ヤリガンナ」「渓流小刀」「肥後守」「斧」「剣鉈」「菜切り包丁」など、大きさや形や用途など実にさまざまだ。

ある意味で、人間は頭(観念)でなく、手(感覚)で思考し、判断する動物だ。使い勝手のいい道具は美しい。そして美しい道具は使い勝手がいい。
かつて、どこの町にも野鍛冶がいた。使い手と作り手の顔が見えた時代があった。使い手は用途や、自分の資質や癖に合った道具を選べた時代があった。だが、いまは出来合いの道具が幅をきかせ、人間が道具に合わせていかなければならない時代になった。
鍛冶仕事は作り手の力量の差がモロに出る。偶然うまくいくということは一切ない。厳しく残酷な世界である。しかし、だからこそ面白い。
繊細さを要求される日本の手仕事はすべて座業だった。座業は、膝も臑も、足の指も治具に使える。

炭と鞴(ふいご)で火を自在に操り、鉄と鋼と金槌とヤットコで何でも造ってしまう鍛冶屋たち。手打ち刃物を生み出す職人の姿が生き生きと描かれている。

2019年9月10日、ちくま文庫、900円。

posted by 松村正直 at 23:16| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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