第1歌集。
タイトルの「ブンバップ」はヒップホップの用語らしい。
オリックス楽天アコム武富士母は貧乏なので歌を聴いてる
ヘッドスピンずっと回ってヘッドスピン止まらないことが美しい夜
父親がコンビニエンスストアから持って帰ってくる生パスタ
傘を差す人が歩道に立っていて陽が射したので日傘の人に
とびだすなキケンぼうやが飛び出ていて猛暑日続けばいいと思った
僕にでもわかる星座が描いてあるあれはたしかカシオペヤ 確か
ぼくの横を速い二輪が抜けてって前のセダンがパトカーになる
友達のジュニアが話しかけてくる親とは違うサイズで僕に
行進はたぶんそれなりにできる子どもの僕がやったのだから
はたらいてシャワーを浴びる日々あるある 緑地公園にふえる紫陽花
1首目、語順がいい。最初は野球の話かと思ったら消費者金融の話。
2首目、このままずっと夜が続いてここが世界の中心であるような。
3首目、「持って帰って」とあるので買ったのではない感じがする。
4首目、モノは変わらないのに「傘」から「日傘」に認識が変わる。
5首目、飛び出し坊や自身が飛び出していることに対するツッコミ。
6首目、「わかる」と言ってから自信がなくなっていくのが面白い。
7首目、スピード違反のバイクを見つけて追い掛ける覆面パトカー。
8首目、大きさは違うけれど顔かたちは似ていて相似形なのだろう。
9首目、小学生の頃にやって以来大人になると行進する機会がない。
10首目、仕事と睡眠を繰り返す日々に気が付けば紫陽花が満開だ。
ラップのような韻の踏み方や音の響かせ方が歌集の大きな特徴となっている。例えば、連作「退屈とバイブス」は「退屈」と「バイブス」がどちらも AIUU で響き合う。
〈怪物をだいぶ疲れた面持ちの男の人が追い出す映画〉の「怪物」「だいぶ(つ)」も同じ原理で、音の響きが言葉を呼び込んでいるのだろう。
〈ビルボードチャートをちゃんと追っている友達とポテトLを終える〉の「チャート」と「ちゃんと」、「トL(エル)」と「終える」なども、内容と言うよりは音が優先されている。
2024年4月9日、書肆侃侃房、1800円。