写真や古地図をもとに景観から地域の歴史を解き明かす「景観史」という手法について記した本。
全国各地の様々な景観がどのような経緯によって成り立ったのか、具体的な事例を豊富に記している。
もともと景観の語は、ドイツ語の「ラントシャフト(Landschaft)」の訳語として使われ始めたのに対し、風景は、日本語として古くから使われてきた言葉である。
風景とは、多くの人々に共有される印象か否かを別にして、個人的・感覚的なとらえ方であると言えよう。
「風景」に比べて「景観」は、より客観的、社会的、科学的な見方ということだろう。
日本橋川のように、近世以来の城下の濠や川が、近代以降に埋め立てられて道路となったり、そのまま残されていても上に高速道路が建設されたりした例は極めて多い。濠や川が本来果たしていた防御・水運機能を必要としなくなったこと、またそれらが市街地のなかに連続して存在する貴重な公有地であって、買収の必要がなく、新しい道路建設が容易であったこと、などが主たる要因である。
三国のような河口に立地する港は、伏木(富山県高岡市、小矢部川・庄川の河口)、東岩瀬(富山市、神通川の河口)、新潟(信濃川・阿賀野川の河口)、酒田(最上川の河口)など、日本海側では珍しくない。これらの河口港は、河川水運によって上流域の産物を集め、西廻り航路によってそれらを広い商圏に売りさばき、逆に、外からさまざなま商品を買い入れ、それを上流域にもたらすことで繁栄した。
一つ一つの話は興味深くおもしろいのだが、全体の構成がやや散漫な印象なのが惜しい。そう言えば、以前読んだ『和食の地理学』でも同じように感じたのだった。
https://matsutanka.seesaa.net/article/480517802.html
2020年7月17日、岩波新書、800円。