歴史総合パートナーズ12。
このシリーズは読みやすく、内容も充実している。
題名の通り「国語」の意味や成り立ちを解き明かした本。明治以降、国家を運営する制度(道具)としての「国語」と国民的精神(ナショナリズム)を宿す象徴としての「国語」という二つの面のバランスを取りながら、「国語」が生み出されてきた流れがよくわかる。
それまで、日本語の研究は、江戸時代に発達した国学の方法によっておこなわれていましたが、上田はヨーロッパの言語学の理論にもとづいた研究を主張したのです。
言文一致は、たんに語ったままが記述されて完成するものではなく、速記術や新聞というメディアの媒介があって成立してくるともいえます。
1895年の台湾植民地化、1910年の韓国併合を経るなかで、植民地支配における「国語」の役割が明確に意識されてきました。
「国語」をめぐるさまざまな問題を通じて、著者は国家のあり方にも迫っていく。
基本的にはだれであれ、近代国民国家という大きな「型」のなかで成長せざるをえない以上、その「型」から逃れることは簡単ではありません。問題は、教育をふくんだ国民国家の「型」のなかで育ってきたのである、ということを自覚できるかどうかにかかっていると私は考えます。
自らの中に滲み込んでいる「型」を相対化して、検証・批判する目を養うこと。これは今後ますます大事になってくる話だと思う。
2020年7月3日、清水書院、1000円。