副題は「南洋のサムライ・中川州男の戦い」。
1944年9月15日から11月27日まで74日間にわたって激しい戦闘が繰り広げられた南洋のペリリュー島(現パラオ共和国)。その戦いの様子を日本軍の指揮官だった中川州男の生涯を軸に描いている。
「日本側のペリリュー島の戦いに関する認識には、日本軍の戦闘力に対する過大評価とある種の思い入れがある」(吉田裕『日本軍兵士』)という点には注意が必要だが、本書は概ね客観的な記述に徹しているように感じた。
文献の中には「州男に弟がいた」とする記録があるが、これは誤りである。
幾つかの文献の中には「現地ペリリュー島に赴いた中川が、その地形を見て地下陣地を構築する作戦を発案した」などと書かれたものが散見されるが、それらの記述は史実とは言い難い。
軍隊に関する興味深い記述もある。
ミツエの兄である平野助九郎少佐(後の陸軍少将)が、中川の上官にあたるという間柄であった。「上官の妹を娶る」という構図は、当時の陸軍では珍しくない光景だった。
同制度(=学校配属将校制度)には、軍縮の影響を被った軍人への失業対策という側面もあった。
一番驚いたのは、米軍が日本兵にビラやマイクで投降を呼びかけたのに対して、日本軍も米兵に投降勧告のビラを撒いていたという話。戦死者10022名、生存者わずか34名という玉砕戦の様子がなまなましく伝わってくる。
パラオには、いつかぜひ行ってみたい。
2019年6月20日、文春新書、880円。