副題は「アジア・太平洋戦争の現実」。
軍人・軍属230万人、民間人80万人、計310万人の日本人が亡くなったアジア・太平洋戦争。その実態を次の3つの問題意識から描き出している。
・戦後歴史学を問い直すこと
・「兵士の目線」で「兵士の立ち位置」から戦場をとらえ直してみること
・「帝国陸海軍」の軍事的特性との関連を明らかにすること
戦病死、餓死、海没死、特攻、自殺、兵士の体格の低下、栄養不良、戦争神経症、装備の劣悪化など、読んでいて気が重くなる話が次々と出てくる。でも、それが戦争の現実なのだ。
日本人に関していえば、この三一〇万人の戦没者の大部分がサイパン島陥落後の絶望的抗戦期の死没者だと考えられる。
戦没者の約9割が1944年以降に亡くなったと推定されている。終戦の決断の遅れが多大な犠牲をもたらす結果となった。
戦争が長期化するにしたがって戦病死者数が増大し、一九四一年の時点で、戦死者数は一万二四九八人、戦病死者数は一万二七一三人、この年の全戦没者のなかに占める戦病死者の割合は、五〇・四%である。
戦場の死者の2人に1人は敵と戦って死んだのではなく、マラリアや栄養失調などで死んだのであった。
海没死者の概数は、海軍軍人・軍属=一八万二〇〇〇人、陸軍軍人・軍属=一七万六〇〇〇人、合計で三五万八〇〇〇人に達するという。
艦船の沈没に伴って主に溺死した人の数である。今も多くの命が太平洋の各地に眠っている。
精神的にも肉体的にも消耗しきった兵士たちの存在を制度の問題としてとらえ直してみたとき、日本軍の場合、総力戦・長期戦に対応できるだけの休暇制度が整備されていなかったことが大きな問題だった。
このあたりの話は、現代の過労死やうつ病などの問題にもつながっているように感じる。
2017年12月25日初版、2022年8月30日第17版。
中公新書、820円。
本籍 三重県四日市市浜田一三七〇
陸軍中尉 松岡清八
右昭和二十年七月十三日比島スール群島方面ニ於テ戦病死(マラリヤ)セラレ候條此段通知候也
留守担当者 松岡富美子殿
雛型が印刷された告知書に住所・氏名・日付・地名などが手書きとなっています。「留守担当者」とされた祖母の苦労を今更ながらに思います。
お祖父様のこと、まさにこの本に書かれている通りですね。終戦まで1か月という時期であることを思うと、何ともやるせない思いになります。3親等以内の親族であれば軍歴証明書の発行が受けられますので、詳しい足跡がわかるかもしれません。