2024年05月23日

ファブリ歌集『リモーネ、リモーネ』


イタリア生まれで「未来」所属の作者の第1歌集。

カン・ハンナ『まだまだです』(2019)などと同じく、日本語を母語としない作者の歌集だ。

頭から食べ始めればたい焼きの笑顔が消えてさびしい昼は
数学の長い講義に比べたら静かなトイレは天国である
味気ないひとりの白いキッチンでゆでたうどんは夜中の食事
食堂のアクリル板に囲まれて僕らはまるで囚人のよう
駅前でチラシ一枚もらっても選挙権なき僕はどうする
夕やけの喫茶店まだ残ってる紅茶のカップに秋のみずうみ
リモーネはレモンレモンはリモーネで今日はすっぱいものが食べたい
雨音でぐっすり眠る人もいる頭痛がひどくなる僕もいる
ラーメンの優しい湯気が食卓を囲んで今夜は喜多方にいる
わが故郷サルデーニャ島に渡ろうとして赤べこはリュックに入る

1首目、笑顔という捉え方が面白い。顔がなくなると無惨な感じだ。
2首目、大勢の人がいる教室とトイレの個室という違いでもあろう。
3首目、素うどんに違いない。「白い」がうまくて、うどんも白い。
4首目、「囲」「囚」「人」の漢字が視覚的にも内容を伝えている。
5首目、日本に住む外国人の参政権について考えさせられる内容だ。
6首目、カップの底に残った紅茶を夕焼けに染まる湖面に見立てた。
7首目、イタリア語のレモン。呼び方を変えると別のものに感じる。
8首目、夜に降る雨の音。人によって好き嫌いが違うことに気づく。
9首目、音の響きの心地よい一首。「喜多方」がうまう効いている。
10首目、土産に買った赤べこ。青い海を渡る赤い牛が目に浮かぶ。

2023年10月18日、喜怒哀楽書房、1000円。

posted by 松村正直 at 10:57| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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