2004年に文春新書から出た本を文庫化したもの。
『上記(うえつふみ)』『竹内文献』『東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)』『秀真伝(ほつまつたえ)』『先代旧事本紀(せんだいくじほんぎ)』『先代旧事本紀大成経』という6つの偽書を取り上げて、その内容や成立過程について論じている。
著者の狙いは真贋論争をすることではなく、偽書を学問として捉えることだ。
真に必要なことは、偽書というものが存在するのも一つの歴史的事実であることをうけとめ、それがどういう意味を持つのかを醒めた目で分析し、学問の上に位置づけることにあると考える。
その上で「言説のキャッチボール」などを通じて偽書が生み出される経緯を検証している。特に面白かったのは中世の注釈に関する話で、単に本文に付随する説明ではなかったらしい。
古典の本文を深読みすることも含め、本文を遊離した新たな伝承ともいえる言説が創造されるという性質がみられ、現代の注釈が「つける」ものであるのに対して、中世の注釈は「つくる」ものという関係にあるという。
短歌に関わる話も出てくる。
『秀真伝』は近世にはすでに存在していたが、明治以降、小笠原通当の一族の子孫、小笠原長城・長武父子が、歌人佐佐木信綱のもとに宮中への献上文を付けた『秀真伝』を送り、信綱を通じて目的を果たそうとしたが、信綱に偽書として一蹴されてしまった。
さすが信綱!
院政期の文化に関して、「文狂い」という現象が注目されている。(…)この「文狂い」という現象は、歌学の世界にもみられた。歌合の場で『万葉集』に存在しない架空の万葉歌を捏造する等の行為として現れる。
自分の詠んだ歌の本歌として万葉歌を捏造したというのだ。何とも面白い話で、詳しく調べてみたくなる。
2019年5月20日、河出文庫、760円。