将棋や棋士に関する文章17篇を収めた本。
ミシマ社の「コーヒーと1冊」シリーズ2。
https://mishimasha.com/coffee/
将棋と特に縁のなかった著者は、2005年の瀬川晶司の棋士編入試験をきっかけに将棋や棋士に興味を持ち始める。
今の私にとって将棋は不可欠な存在となっている。(…)なぜか。今の私にとって将棋以上に震える対象はないからだ。棋士以上に興味を惹かれる存在などいないからだ。
そんな著者が、里見香奈、三浦弘行、屋敷伸之、中村太地、羽生善治、渡辺明、森内俊之といった棋士の勝負を追い、話を聞く。
「6六銀は、ここに銀を捨てるからすごい手なんですよと、プロがアマチュアにすぐ説明できるじゃないですか。トップのプロが感心する一手というのは、もうちょっと難しくて地味なところの手ですね」(渡辺明)
「相手を打ち負かそうという感情は薄いと思います。でも、将棋は勝つか負けるかしかないので、負けないためには勝つしかないんですよね。負けるのは嫌なんです」(森内俊之)
勝つか負けるしかない世界の厳しさと潔さ。そこでは言い訳も弁解も肩書も年齢も、何の役にも立たない。
どれだけ優勢に立った終盤戦でも、三点リードの後半ロスタイムといった状況は存在しない。あるとすれば、三点リードで迎える九回裏二死満塁しかない。
なるほど。一手の持つ怖さが実によくわかる比喩だ。
2015年5月25日第1刷、2017年12月20日第4刷。
ミシマ社、1000円。