2024年04月10日

藤井貞和『日本語と時間』


副題は「〈時の文法〉をたどる」。

「き」「けり」「つ」「ぬ」「たり」「り」など多くの助動詞を持っていた文語の時間表現のありようを確認しながら、その変遷と現代につながる道筋を記した本。

いわゆる文法に関する本なのだが、「文法がけっして学習にとっての検閲≠ノなりませんように! より深く文章を味わうための道しるべになってほしい」とあるように、非常に豊かな内容を持っている。

古文の七〜八種の時間の差異を知ってのち、近代文学や現代詩歌に接すると、われわれの近代や現代での文体を創る苦心とは、それら喪われた複数の時間を復元する努力だと知られる。
「……だろ!」「……行こ!」などと、「だろう」「行こう」の「う」をゼロ化(厳密には促音化)してさえ、未来〜推量(〜意志)は成立するのだから、文法はおもしろい。
当然のことながら、古代人はやすやす「たり」と「り」を使い分ける。別語だから「たり」と「り」との二種があったので、それらの使い分けが難しいのは現代人にとってだ、ということを銘記しよう。
一方、俳句(発句)形式はどうだろうか。/5−7/5/という形式は、非音数律詩だと言うほかない。(…)音数律詩が成立する直前で投げ出された、その意味で自由@・として俳句形式はある。

助動詞の相関図としての「krsm四面体」モデルをはじめ、著者の独創的なアイデアが随所に出てきておもしろい。一つ一つ自分の頭で根源から考え抜く姿勢の大切さを教えられた。

2010年12月17日、岩波新書、800円。

posted by 松村正直 at 12:14| Comment(0) | ことば・日本語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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