島根県塔短歌会員有志による同人誌の2冊目。
https://matsutanka.seesaa.net/article/500810803.html
9名の連作7首+コメントと、前号評(寺井淳)、題詠「砂」の歌評が載っている。前号よりさらにパワーアップした印象だ。
樹の下は深深と赤き沼になる咲いても落ちても椿のままで
あんなにも樹の下まつ赤に落ち椿ひとつくらいはなりすましがゐる
/今井早苗
「椿」7首はうす暗い心のありよう感じさせて迫力のある一連だ。1首目は「沼」に喩えたところが印象的。2首目の「なりすまし」にも不気味なものを感じる。
冬の画廊にふたりならんでみた絵画ふたつの岩が描かれていた
夕焼けは空の出血 橋の上できみがおおきく口あけている
/田村穂隆
1首目は「ふ」の頭韻が効いている。二つの岩が二人の関係性を暗示しているようだ。2首目はまるで「きみ」が血を吐いているかのよう。禍々しくも美しい。
月明かり南の窓からさしこんでしかくい部屋にしかくをつくる
/乙部真実
四角い窓から差し込んだ月明かりが床を四角く照らしている。「しかく」の繰り返しが巧み。
鼻かんで捨てたティッシュのことなんておぼえていないでしょう ふるさと
/上澄眠
最後の「ふるさと」が何とも痛烈。ふるさとを捨てた人(自分?)への強い問い掛けだ。
二億回再生されたラブソングなんかに涙が出てしまうおれ
/西村鴻一
そんなものに心を動かされたりしないと思っていたのに、という感じか。再生回数二億回は伊達じゃなかった。
木造船になったあなたの右肩にひと枝さきはじめている蠟梅
/日下踏子
幻想的な味わいの歌。人間だった頃の魂や心の名残のように、美しい蠟梅が光っている。
風葬の手順を君に語られて君を風葬させながら聞く
/丸山恵子
下句がおもしろい。頭の中で死んだ君を手順通りに風葬させていく。どことなく官能的でもある。
縦縞の建屋越しに見る海は今日は綺麗な穏やかな青
/平田あおい
島根原子力発電所と美しい日本海。「今日は」が穏やかでない天気の日や、さらには万一事故が起きた時のことなどを想像させる。
同人誌「北公園 砂場編」(600円)と前号の「北公園」(500円)は、「書架 青と緑」のネットショップで購入できます。
https://shoka-books.stores.jp/
2024年2月25日、北公園編集委員会、600円。