乾 まず、私はこれから先、名歌とか秀歌とかってあんまり増えない気がしてて。
乾 まわりのみんなが、自分の歌を後世に残すことを目指して短歌をやってるとは思わないし、そもそも何が秀でてるかを判断する力が分散しているので。協力しないと名歌は生まれないけど、みんな協力しないので、もう無理だと思う。
瀬戸 私がいちばん世代の違いを感じるのは歌集に対して売れる売れないっていうものさしが入ってきたところ。資本主義競争が入ってきたのが一番でかいと思う、変化として。だから新人賞の価値も目減りしたと感じるかな。
乾 アイドルの表情を、素でやってることじゃなくて、技術によるパフォーマンスとしてほめるときの言葉が「表情管理」で、この言葉自体が、提供されているものが技術でもいいよっていう最近の価値観の現れだと思います。
瀬戸 今の総合誌や結社誌にたくさん載ってる中途半端な自己満政治詠は日本人同士が慰めあって気持ちよくなってるようにしか思えない。
こんな発言がポンポン出てくる。短歌の現状に対する分析が鋭いし、それを言語化できる力もあって、読ませる対談になっている。
もちろん、内容的には賛同できる部分だけではない。特に乾さんの見ている短歌の世界は自分の知り合いの範囲にとどまっているような、内輪な視野の狭さを感じた。
作者を「○○くん」「○○ちゃん」と呼んだり、「先輩」「後輩」といった言い方をするところにも、学生短歌会出身の歌人の良くない点が出ていると思う。歌人として世に出たら、もう先輩も後輩もないでしょうと思うのだけど。
昔はよく「結社の弊害」が問題になったけれど、今は「学生短歌会の弊害」とでも言うべき状況があるように感じる。
そんなふうに、頷いたり反発したりしながら全38ページを一気に読み終えた。読み終えても何だか胸がざわざわする。それこそが二人の放つ言葉の力なのだろう。
http://gendaitanka.jp/magazine/2024/05/