2017年から2022年の作品597首を収めた第6歌集。
そこはかとなく冬は来てこんにゃくをパパの匂いと言うむすめあり
生まれたる日は水曜日ゆびさきを五センチ四方すべらせて知る
十二年生きたるという岩牡蠣を食いて穏やかならずこころは
アルタイル見つつ思えり地球ではない方にゆく光のゆくえ
鶏ももの三百グラム買うときの、ちょっと出ちゃっていいですか? 好き
いつか訊かんとして訊かざりき「教師なんて馬鹿のしごと」と言いし父のこころ
〈選べる〉は〈選ばなくてはならない〉でコーヒーブラック、ホットで先で
ヘアピンをしている男子なぜだめかだれもわからず会議が長い
この店のウエットティッシュしょぼくなるこうして日本しょぼくなりゆく
耐熱、の表示を信じ、信じない、注ぎながらにそっと念じる
1首目、娘とのやり取りがユーモラスに詠まれ、微苦笑を誘われる。
2首目、スマホで検索するだけでいろいろなことがわかってしまう。
3首目、1年1年少しずつ成長した命だが、食べるのは一瞬のこと。
4首目、光は全方向に放たれているのだが誰に見られることもない。
5首目、昔ながらの対面販売の肉屋さん。温かみのある会話がいい。
6首目、亡き父の言葉。仕事に関しては互いに譲れないものがある。
7首目、自分の意志で選択するのは自由なようでいて強制でもある。
8首目、これまでダメだったからダメといった考え方は今も根強い。
9首目、経費削減のためなのだろう。昔はおしぼりが一般的だった。
10首目、信じつつ信じてないという心のありように気付かされる。
2024年1月25日、六花書林、2500円。