2021年に新潮社から出た単行本に、巻末の丸山ゴンザレスとの対談を追加して文庫化したもの。
「アメリカで水中考古学を学んでみたい!」という夢を持って渡米した著者が、自らの経歴や水中考古学の発掘の様子などを記している。
留学当初は英語がわからずタクシー料金をぼったくられたり、食べ物を買うこともできない日々が続く。
実は、アメリカのマクドナルドではハンバーガー単品のことを「サンドウィッチ」、セットメニューのことを「ミール」という。そんなことは全く知らない私は「バーガーセットプリーズ」と完全な日本人発音の英語で懇願していたのである。
それでも諦めることなく、ついにはテキサスA&M大学で船舶考古学の博士号を取得し、ギリシャ、クロアチア、イタリア、バハマ、コスタリカ、ミクロネシア連邦など世界各地の海で発掘調査をするまでに至る。
ユネスコは少なく見積もっても、世界中には「100年以上前に沈没し」、「水中文化遺産となる沈没船」が300万隻は沈んでいるとの指標を出している。
300万隻という数字からは、まだまだ調査されていない船が無数に海底に眠っていることがわかる。
19世紀の終わりに飛行機が発明されるまでは唯一、人が海を越えるための乗り物が船だった。そのため、常にその時代の最先端の技術がつぎ込まれている。
これは現代人が意外と気づかない観点かもしれない。船は最先端のテクノロジーの産物であり、沈没船や積荷を調べることで、当時の技術水準や交易の様子が明らかになるのだ。
では、どのようなタイミングで帆船は海難事故に遭うのであろか? 圧倒的に多いのは、「港を出てすぐ」と「港に帰ってくる時」なのだ。船は基本的には水深の浅い海岸線から距離を取って移動をする。しかし、出港と帰港のタイミングはどうしても陸に近づかなければならない。この時、暗礁や浅瀬に船の底が接触したり、乗り上げたりして座礁する危険性が圧倒的に高くなるのである。
これも言われてみれば当り前の話ではあるが、盲点だった。飛行機は離陸と着陸の時が事故の危険性が高いが、船も同じなのであった。
2024年2月1日、新潮文庫、590円。