2024年03月02日

安田浩一『団地と移民』


副題は「課題最先端「空間」の闘い」。

戦後の住宅難を解消するために全国各地に建てられた団地。その歴史と現在を描いたルポルタージュである。

著者は、公団団地第一号の金岡団地(堺市)、孤独死問題に取り組む常盤平団地(松戸市)、日活ロマンポルノの舞台となった神代団地(調布市、狛江市)、中国人が多く住む芝園団地(川口市)、移民が多く住むブランメニル団地(パリ)、中国残留孤児の多く住む基町団地(広島市)、日系ブラジル人が多く住む保見団地(豊田市)など、各地の団地を取材して回る。

団地はなにもかもが新しかった。銭湯通いが当たり前だった時代に、夢の「風呂付き住宅」である。しかも食卓と寝室が分かれていることも、庶民にとっては珍しかった。そのころは食事を負えたら座卓を片づけ、夜具を整えるのが当たり前だったのだ。

かつてはこのように生活スタイルの最先端であった団地は、現在では住民の高齢化と外国人入居者の増加によって、日本の未来を占う最先端の場所となっている。

ただでさえ交わることの少ない高齢者と若年層の間に、人種や国籍といった材料が加わり、余計に溝を深くする。敵か味方か。人を判断する材料がその二つしかなくなる。/団地はときに、排外主義の最前線となる。
団地ではいま、高齢者住民と外国人の間に深刻な軋轢が生まれている。異なった生活習慣と文化を持った人々への嫌悪(ゼノフォビア)は、まだまだ日本では根強い。/そこに加えて、日本社会の一部で吹き荒れる排外主義の嵐が、団地を襲う。

一方で、こうした課題にうまく対応することができれば、多文化共生の絶好のお手本になる場所でもある。そうした取り組みも既に各地で始まっている。

政府の思惑が何であれ、少子化と急激な高齢化が進行する以上、好むと好まざるとにかかわらず、移民は増え続ける。/その際、文字通りの受け皿として機能するのは団地であろう。/そう、団地という存在こそが、移民のゲートウェイとなる。

今、団地がおもしろい。これからも注目していきたい。

2022年4月10日、角川新書、920円。
posted by 松村正直 at 20:37| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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