2024年02月19日

俵万智歌集『アボカドの種』


375首を収めた第7歌集。

ウクライナ今日は曇りというように戦況を聞く霜月の朝
はちみつのような言葉を注がれて深夜わたしは幸せな壺
占領のかさぶたありて牛乳は946ミリリットル
ベランダで見るときよりも窓枠を額縁にした月が明るい
角あわせ夏のおりがみ折るようにスイカを冷やす麦茶を沸かす
一撃でずんと倒れるイノシシのもう動かないガラスの目玉
シトーレンにバター滲みゆく冬の午後 可視化できない子の心あり
「おなしゃす」はお願いしますのことらしいコンビニ振り込み二日以内に
九十の父と八十六の母しーんと暮らす晩翠通り
言葉とは心の翼と思うときことばのこばこのこばとをとばす

1首目、毎日耳にしているうちにだんだん慣れてしまうことの怖さ。
2首目、身体中に嬉しい言葉がたっぷりと満ち溢れていくイメージ。
3首目、沖縄ではアメリカ占領時にガロンを使っていた影響が残る。
4首目、外より室内で見る方が明るく感じるのが面白い。額縁効果。
5首目、夏の定番であるスイカと麦茶が暮らしの様式になっている。
6首目、「ガラスの目玉」が印象的。既に命を宿さない目の感じだ。
7首目、堅いパンとバターの様子が息子の心のありようと呼応する。
8首目、子から届く振込依頼のLINEの言葉。私の息子もよく使う。
9首目、詩人の土井晩翠にちなむ仙台の道路名が晩年を感じさせる。
10首目、こ・と・ばの音をひらがなでリズミカルに用いて鮮やか。

2023年10月30日、角川文化振興財団、1400円。

posted by 松村正直 at 09:31| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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