2024年02月17日

アーシュラ・K・ル=グウィン『文体の舵をとれ』


副題は「ル=グウィンの小説教室」。

「ゲド戦記」シリーズなどで知られる著者が、ワークショップで実践していた小説の書き方をまとめた本。テーマごとの解説と実例、そして練習問題といった構成になっている。

小説についての話であるが、短歌とも共通する部分がけっこうある。

技術が身につくとは、やり方がわかるということだ。執筆技術があってこそ、書きたいことが自由にかける。また、書きたいことが自分に見えてくる。
書き上げたばかりの自作に対する自分の判断なんて信用できないというのが、作家における数少ない常識のひとつだ。実際に少なくとも一日二日空けてみないと、その欠点と長所が見えてこない。
良作をものにしたい書き手は、名作を学ぶ必要がある。もし広く読書をしておらず、当代流行の作家ばかり読んでいるのなら、自らの言語でなしえることの全体像にも限界が出てくる。
飛び越えるとは、省くということ。省けるものは、残すものに比して際限なくたくさんある。語のあいだには余白が、声のあいだには沈黙がないといけない。列挙は描写ではないのだ。

合評会についての話も出てくる。こちらも歌会と共通する点が多い。

創作仲間でいい合評ができると、お互いの励ましになる上、仲良く競い合うことも、刺激的な討論も、批評の実践も、難しいところを教え合うこともできる。
何らかの修正案は確かに貴重だが、敬意のある提案を心がけよう。自分には修正すべき方向性がわかっているという確信があっても、その物語はあくまで作者のものであって、自分のものではない。
作者としては自作が批評されると、どうしても弁解しようと、ムッとして言い訳や口答え、反論がしたくなるものだ――「いやでもその、自分の真意としては……」「いや次に書き直すときにそうしようと思ってて」。こういう反応は禁止しておくと、そんなことのために(自分や相手の)時間を無駄にしなくて済む。

面白く読んだ本なのだが、もともと英語の文章の書き方の話なので、言葉のひびきや文法に関する部分などどうしても翻訳では限界がある。丁寧な注釈や解説も付いているが、おそらく原文で読まないと伝わらない部分も多いだろうと感じた。

2021年7月30日、フィルムアート社、2000円。

posted by 松村正直 at 10:35| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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