1976年に刊行された単行本に1篇を加えて文庫化したもの(1982年)の新装版。
「海軍乙事件」「海軍甲事件」「八人の戦犯」「シンデモラッパヲ」の4篇を収めている。幅広い資料収集と取材を基にした戦記文学で、どれも読み応えがある。
「海軍乙事件」では、ゲリラの捕虜となった連合艦隊参謀長以下9名や救出に当たった部隊について、生存者に話を聞いて詳細を明らかにしている。
また、「海軍甲事件」では、撃墜された山本五十六司令長官機を護衛した六機の戦闘機のパイロットたちのその後をたどっている。
歴史の表舞台には出て来ないこうした人々の姿を丁寧に掘り起こしているところが、大きな特徴と言っていいだろう。
「シンデモラッパヲ」は、日清戦争で戦死したラッパ卒をめぐる軍国美談と騒動を冷静な目で描いている。
源次郎の生地船穂町では、日清戦役で戦死したのは白神源次郎ただ一人であったが、日露戦役では一四名、日華事変・太平洋戦争では実に二二〇名の戦死者数にふくれあがっている。
1名→14名→220名。時代が進むにつれて戦争の規模が拡大していく様子が如実にわかる数字だと思う。
2007年6月10日、文春文庫、524円。