幕末から明治にかけての探検家・古物蒐集家の松浦武四郎(1818‐1888)を主人公にした小説。
晩年の松浦が河鍋暁斎の娘のお豊(河鍋暁翠)に昔の自分を語るというスタイルで展開していく。北海道や樺太を調査した話も、もちろん多く出てくる。
松浦武四郎が生まれた伊勢という土地は、伊勢神宮があることから、〈神都〉と呼ばれていた。江戸を武都といい、京都を皇都というのに対して……神都である。
松浦老人たちは、ただ集めるだけではないのであった。集めたものを分類し、記録し、そして考察する……集められたことで、ひとつひとつのモノは本質を極められて、価値を増し、ますます輝く。
当時、志士たちの間で漢語が流行ったのは、それが彼らの間の唯一の共通言語だったからである。
ちょうど4月から東京の静嘉堂文庫美術館で、「画鬼 河鍋暁斎×鬼才 松浦武四郎」という展覧会が開催されるらしい。この本に出てくる「武四郎涅槃図」や「大首飾り」も展示されるので、ぜひ見に行きたいと思う。
2023年7月11日、小学館文庫、780円。