雪国の暮らしやコロナ禍における学校の様子が印象に残る。
花寿司と白酒を母と祖母に供ふささやかなれど雛の家なる
病院の売店に旅の雑誌あり表紙の隅が少しめくれて
矢印のかたちとなりて海恋ふるスルメ炙れば潮の香のたつ
例ふれば東京タワーのてつぺんにゐるらし深き十和田湖の澄む
集落に墓所あれば村の畑には花を植ゑたる一畝のあり
黙食といふ新習慣にほつとする生徒ゐるらむみんながひとり
雪原は真つ白な海 満ち潮の二月去り引き潮の三月
冷え込んだ体育館に整列す生徒ら兵馬俑のたたずまひして
あぶり出せば「メメント・モリ」と浮き出でむ薄墨いろの欠礼はがきは
除雪機の排雪筒に詰まりたる雪を掻き出す摘便のごと
1首目、毎年欠かさず祝っているのだろう。女三代の系譜を感じる。
2首目、入院中の患者が元気になったらと思って眺めたのだろうか。
3首目、初二句の見立てが面白い。海の方角を指しているみたいだ。
4首目、水深327メートルなので東京タワーがほぼすっぽり収まる。
5首目、町と違って墓参り用の花は買うのではなく畑で育てている。
6首目、友達の少ない子や一人が好きな子には、むしろありがたい。
7首目、冬から春への移り変わりを雪の量の変化で感じ取っている。
8首目、長年勤めた学校の退任式。「兵馬俑」の比喩が実に印象的。
9首目、誰もがいつかは死ぬことをあらためて感じ考えさせられる。
10首目、雪深い土地に暮らす人ならではの歌。扱いに慣れている。
2023年11月20日、柊書房、2300円。
お礼の手紙も出さずに恐縮です。印象に残る歌の多い歌集でした。「現代短歌新聞」2月号にも別の内容で書評を書かせていただいたところです。
大雪の予報が出ております。どうぞお大事にお過ごしください。