2024年01月19日

福士りか歌集『大空のコントラバス』

2018年から2023年までの作品400首を収めた第5歌集。
雪国の暮らしやコロナ禍における学校の様子が印象に残る。

花寿司と白酒を母と祖母に供ふささやかなれど雛の家なる
病院の売店に旅の雑誌あり表紙の隅が少しめくれて
矢印のかたちとなりて海恋ふるスルメ炙れば潮の香のたつ
例ふれば東京タワーのてつぺんにゐるらし深き十和田湖の澄む
集落に墓所あれば村の畑には花を植ゑたる一畝のあり
黙食といふ新習慣にほつとする生徒ゐるらむみんながひとり
雪原は真つ白な海 満ち潮の二月去り引き潮の三月
冷え込んだ体育館に整列す生徒ら兵馬俑のたたずまひして
あぶり出せば「メメント・モリ」と浮き出でむ薄墨いろの欠礼はがきは
除雪機の排雪筒に詰まりたる雪を掻き出す摘便のごと

1首目、毎年欠かさず祝っているのだろう。女三代の系譜を感じる。
2首目、入院中の患者が元気になったらと思って眺めたのだろうか。
3首目、初二句の見立てが面白い。海の方角を指しているみたいだ。
4首目、水深327メートルなので東京タワーがほぼすっぽり収まる。
5首目、町と違って墓参り用の花は買うのではなく畑で育てている。
6首目、友達の少ない子や一人が好きな子には、むしろありがたい。
7首目、冬から春への移り変わりを雪の量の変化で感じ取っている。
8首目、長年勤めた学校の退任式。「兵馬俑」の比喩が実に印象的。
9首目、誰もがいつかは死ぬことをあらためて感じ考えさせられる。
10首目、雪深い土地に暮らす人ならではの歌。扱いに慣れている。

2023年11月20日、柊書房、2300円。

posted by 松村正直 at 10:01| Comment(2) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お読みいただいて幸いです。しかも好きな歌をあげていただいて。ありがとうございました。
Posted by 福士りか at 2024年01月23日 18:22
福士さま、コメントありがとうございます。
お礼の手紙も出さずに恐縮です。印象に残る歌の多い歌集でした。「現代短歌新聞」2月号にも別の内容で書評を書かせていただいたところです。
大雪の予報が出ております。どうぞお大事にお過ごしください。
Posted by 松村正直 at 2024年01月23日 18:43
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