副題は「アジアとヨーロッパを結ぶ旅」。
1874年から1945年までのシベリア鉄道の歴史をたどりつつ、シベリア鉄道に乗った日本人の旅行の様子を描いた本。終章に2012年に著者自身がシベリア鉄道でパリに渡った記録も収めている。
登場するのは、田辺朔郎、徳富蘆花、杉村楚人冠、二葉亭四迷、与謝野晶子、山田耕筰、荒畑寒村、吉屋信子、中條百合子、林芙美子、松岡洋右など。
21世紀の現在、シベリア鉄道でヨーロッパに行く人はほとんどいないが、飛行機が一般的でなかった戦前は、船とならんでシベリア鉄道もよく使われていた。
シベリア鉄道に対する日本人の関心には、もともと二面性がある。一つはヨーロッパとアジアを結ぶ鉄道への夢である。それは日本からロンドン・ベルリン・パリへ短期間で旅をする夢であり、物流によって経済が活性化する夢である。もう一つは、ヨーロッパからアジアに、軍隊が送り込まれてくるという恐怖だった。
日本史や世界史に関する記述も多く、忘れていた知識が頭の中で整理されていく。
一九〇四(明治三七)年二月八日の日本軍の奇襲から始まった日露戦争は、日本の帝国主義の地歩を固める戦争になる。日本の戦費をアメリカとイギリスが、ロシアの戦費をフランスが負担したことが示すように、それは帝国主義観の覇権争いでもある。
一九一七年以前の本に「露都」と出てくるのは、ロシア帝国の首都ペテルブルグである。
二つの世界大戦に挟まれた一九二〇年代と一九三〇年代の前半は、ヨーロッパへの旅行者が増加した時代である。特に一九二九(昭和四)年一〇月の世界恐慌以前は、アメリカを中心に経済が活性化して、大量生産・大量消費の生活様式は確立された。
シベリア鉄道に着目することで、近代日本の歴史や日本とロシアの関係など様々な物語が浮かび上がってくるのであった。
2013年1月15日、筑摩選書、1600円。