2024年01月13日

富田睦子歌集『声は霧雨』

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2018年から2021年までの作品381首を収めた第3歌集。
中学生の娘やコロナ禍を詠んだ歌が多い。

プリキュアの玩具開ければ乾電池ふるびてしろき結晶を吹く
うずら豆ひよこ豆はた白花豆まめを煮るとき耳はたのしむ
めくるめく、と言うときかすか日めくりは海からきたる風にはためく
流し場のワタより滲む虹色は地中の管を流れゆくなり
夕暮れのイオンのレジは忙しき人らが並び迷子の心地す
無糖紅茶を一気飲みして荷物から体重へ水の重さを移す
リモート授業の動画を二倍速で見て一日の淡し家居のむすめ
九十度机の向きを変えてみるわれへ近づく鳥と半月
予定なき盆の休みの朝寝坊マッコウクジラの家族のように
まだ親に決定権のあるからだ問診表にサインを入れる

1首目、かつて娘が遊んでいた玩具。歳月の経過をあらためて思う。
2首目、豆によって色や形、煮えるまでの時間なども違うのだろう。
3首目「めくるめく」という言葉が引き寄せてくる明るいイメージ。
4首目、暗い下水道の中を流れていく鮮やかな虹色を思い浮かべる。
5首目、自分ひとり周囲からぽつんと取り残されてしまった気分だ。
6首目、総重量は変らないけれど、荷物が軽くなると運ぶのは楽だ。
7首目、学校には授業以外に大切なことがたくさんあったと気付く。
8首目、座る向きを変えるだけで見える世界が変わり気分も変わる。
9首目、ゆったりとした音の響きや韻律が内容とうまく合っている。
10首目、やがてワクチン接種に親の同意の要らない年齢を迎える。

2023年11月30日、砂子屋書房、3000円。

posted by 松村正直 at 22:26| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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