2023年12月28日

北山あさひ歌集『ヒューマン・ライツ』


318首を収めた第2歌集。

晩夏(おそなつ)のレモンを切り分けるナイフ 連帯してもしなくてもいい
『「育ちがいい人」だけが知っていること』という本ぜんぶ燃やして焼き芋
木は雪を、雪は硝子をくすぐって冬の終わりの始まりしずか
ワカサギのように心が反り返る怒っているのに元気と言われて
紙詰まりを放置されたるコピー機のつめたき胸へ手を差し入れる
サイダーのキャップを捻る瞬間に「元気だった?」と声がして 夏は
サモトラケのニケの両腕 妹と長く長く母を奪い合いたり
豆腐とはまず水の味、豆の味おわるころお坊さんの味なり
まよなかの雪をしずかに吸いながらみずうみ、傷はゆっくり癒える
てぶくろの指にすいっと縄暖簾分けて真冬の顔を見せたり

1首目、遠い昔に聞いた「連帯を求めて孤立を恐れず」を思い出す。
2首目「育ちがいい」という言葉への反発。「焼き芋」が真骨頂だ。
3首目、雪解けの様子だろうか。「くすぐって」に春の予感が滲む。
4首目、動きのある直喩が印象的だ。怒りが伝わらないもどかしさ。
5首目、コピー機が擬人化され、まるで悩みを取り除いているよう。
6首目、映画のワンシーンのように爽やか。炭酸の弾ける音がする。
7首目、姉妹で両腕を引っ張り合った末に腕がもぎ取れてしまった。
8首目「お坊さんの味」がいい。豆腐は精進料理にもよく使われる。
9首目、傷の癒え方のイメージ。「吸い」という動詞の選びがいい。
10首目、居酒屋などに入って来る人の姿。映像がよく目に浮かぶ。

2023年11月6日、左右社、1800円。

posted by 松村正直 at 10:33| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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