2023年12月22日

土岐友浩歌集『ナムタル』

235首を収めた第3歌集。

それぞれの影にもたれる黒松の遊歩道から海が見えるよ
松原の空はまばらに曇りつつサマータイムはまだ先のこと
ウミネコよ半日だけの旅行者の仮面をつけて串焼きを買う
狂うってよくないですよ手のなかの日が暮れるまで竜頭をいじる
低く飛ぶ 高くも飛べる サンマルクカフェを横切る夏のつばめは
年の瀬の摂津富田に逃げ込んでエデンの園の顚末を訊く
芸術は爆発してもいいけれどお一人様で餃子を食べる
人間のかたちに近いつぶつぶを数えてみたら青に変わった
山茱萸の実をふるわせて心にはむしろかたちがあると気がつく
ひとりでは心もとない豆腐屋のランチに人が並びはじめる

1首目「もたれる」という動詞の選びがいい。松が傾いている感じ。
2首目「松原」「まばら」の音が響き合う。「ま」の音は下句にも。
3首目「ウミネコ」と「串焼き」がいかにも旅先という感じである。
4首目、人間が狂うのかと思って読むと結句で時計の話だとわかる。
5首目、燕が夏空を自在に飛ぶ姿が初二句からうまく伝わってくる。
6首目「富田」「混んで」「エデン」と響き合う音が耳に心地よい。
7首目、岡本太郎のCMの激しいイメージから一転して下句は静か。
8首目、上句の言い方がおもしろい。歩行者用信号のLEDのことだ。
9首目、風に揺れる「山茱萸の実」が心の形をイメージさせたのか。
10首目、自分以外はみんなグループなどで店に来ているのだろう。

2023年9月10日、私家版、2000円。

posted by 松村正直 at 23:24| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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