副題は「小さなるものの芽生えを、奪うことなかれ」。
男性中心の社会や歌壇にあって、女性歌人が結集して1949年に創刊した「女人短歌」。その創刊に至る経緯や女性歌人たちの活躍、そして1997年の終刊までの歴史を豊富な資料に当たって描き出した力作である。
登場するのは、五島美代子、長沢美津、阿部静枝、北見志保子、山田あき、生方たつゑ、葛原妙子、森岡貞香、真鍋美恵子など。中でも、五島と長沢が「女人短歌」において果たした役割を、著者は高く評価している。
これまで特に着目して論じられることはなかったが、筆者自身が長年研究してきた歌人五島美代子の存在が大きく関わっていることが確認できた。また、歌人長沢美津は、創立から終刊に至るまで、欠くことのできない大きな存在であることも意義深いものであった。
この二人がともに子を自死で亡くしていることも印象深い。
五島美代子は長女ひとみを一九五〇(昭和二五)年に亡くした。長沢の三男弘夫の死は、その四年後の出来事である。『女人短歌』の思想。実務の両輪となって活躍してきた五島と長沢に、図らずも同じ不幸が襲ったのである。
「女人短歌」が192号の雑誌を発行しただけでなく、「女人短歌叢書」として624冊もの歌集を刊行していたことを初めて知った。そこには葛原妙子『橙黄』、森岡貞香『白蛾』、真鍋美恵子『玻璃』、雨宮雅子『鶴の夜明けぬ』などの名歌集も多く含まれている。
「女人短歌」の終刊は1997年12月。「アララギ」の終刊と同じ時であった。「アララギ」が近代から戦後にかけて一貫して男性中心の歌壇の象徴的存在であったことを思えば、それは偶然の一致ではないのかもしれない。
「女人短歌」は国会図書館の個人向け送信サービスで全号読むことができる。今後、さらに研究が進んでいくのではないだろうか。
2023年6月26日、書肆侃侃房、2200円。