副題は「文学・美術における新旧対立と連続性」。
日本近代の「文学」の特性を考える場合、旧来の漢詩・和歌・俳句・演劇・美術の近代化への対応を見逃すことはできない。一見独立しているかに見えるこれら諸ジャンルの近代化への対応は、「旧派」と「新派」の相克・通底という点で、相互に関連している。
という問題意識をもとに行われた領域横断的な研究の成果を、15名の執筆者が「絵画」「和歌・俳句」「小説」「戦争とメディア」の4部門で記している。和歌から短歌への流れを考える上でも興味のある話ばかりだ。
日本絵画史において日本画というものは、はじめから存在したのではなく、洋画が生まれたことによって日本画という概念が誕生したという整理になる。
/古田亮「明治絵画における新旧の問題」
後の近代短歌の流れから逆算して短歌史を語る危険性を忘れてはならない。『明星』一派の動きは、歌壇全体からすれば局所的なものに過ぎず、むしろ佐佐木や金子薫園ら落合直文門下の、国語教育における和歌鑑賞と創作指導が、新たな波を下支えしていく面を忘れてはならない。
/井上泰至「子規旧派攻撃前後」
俳諧の場合は、明治中頃に正岡子規が登場して以降にいわゆる「新派」が形成されても、少なくとも昭和戦中期までは江戸時代的な「旧派」俳諧が「日本」の各地域で嗜まれていた。
/伴野文亮「「旧派」俳諧と教化」
歴史的な流れを捉えるには、現在の目で見るのではなく過去の時点に立ち返って考えなければならないこと、他のジャンルの動向にも視野を広げる必要があることなど、大事な指摘がいくつも出てくる。
2023年7月18日、勉誠出版、2800円。