2023年11月19日

働く三十六歌仙『うたわない女はいない』


「働くこと」をテーマにした36名の歌人の作品8首+エッセイを集めたアンソロジー。巻末に「おしごと小町短歌大賞」の選考対談(俵万智×吉澤嘉代子)と大賞を受賞した遠藤翠さんの記念寄稿8首+エッセイも載っている。

事務職をやっていますと言うときの事務は広場のようなあかるさ
/佐伯紺
切れ味の鈍いはさみを入れられて紙はつかの間身悶えをする
/道券はな
今朝も今宵もみな揺れながら運ばれる秘宝のようにかばんを抱いて
/井上法子
保育園からの電話を取り次ぐと同僚がお母さんの顔に
/谷じゃこ
残業は罪かそれとも快楽か母でも妻でもないわが時間
/奥村知世
育ったままの形が自分の姿になる。樹木ってそういう存在なんだと改めて感じた。上手く言えないが、自然に手足を伸ばせずとも、身体や心を歪めてしまっても、そうして生きた時間そのものが自分の形になるのは人間も一緒なんだろう。
/竹中優子「樹木のように」

私は常に誰かを傷つけているということを忘れない。病名告知で泣かせてしまった相手を、再発を告げた部屋の静けさを、お見送りのために外の扉をあけ吹き込んでくる真冬の夜の冷気を。
/塚田千束「あなたのことを考えている」

短歌のために両手を空けて生きてきた。ちゃんと「働く」をやったことがない。
/平岡直子「両手」

シンガー・ソングライターの吉澤嘉代子さんの選歌や歌の読みがとても良かった。短歌は読むだけで作ってはいないとのことだけれど。

2023年7月10日、中央公論新社、1800円。

posted by 松村正直 at 19:33| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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