読み方は「とりのあと、ほらのおと」。
先月行われた文学フリマ大阪で購入。
雨は降る たとえば傘をひらかせてたとえばあなたに本を読ませて
ややすこしたいせつそうに花束を抱いているならお別れのあと
ファミチキのチキンもましてやファミリーも想わぬ僕を焦がす夕暮れ
ぱりぱりの水菜よ僕はパワハラのパワーではない力が欲しい
同じように、は同じではなく同じように春は訪れ仕事場を去る
あらがわないこともあるいはたくましさだとおもうんだ青椒肉絲
ありがとう水が流れてきてくれて多目的用小さな海に
それが暗い海の底でもピザ屋なら僕を見つけてくれるだろうね
ソーダバー当たりの分がまた当たり今年の夏は終わらないまま
浴室の扉を閉めた瞬間の顔 どうしようもなく一人の
1首目、雨が降ることで街の景色やあなたの過ごし方が変っていく。
2首目、花束を持つ人の雰囲気から送別会などを想像したのだろう。
3首目、鳥や家族を思い浮かべることなくホットスナックを食べる。
4首目、他者を威圧し屈服させるのとは違う力のあり方はあるはず。
5首目、初二句に発見がある。何も変らないようでいて変っていく。
6首目、青椒肉絲の具材はまさにこんな感じでそれぞれ生きている。
7首目、多目的用トイレ。水の流し方がわからずに困ったのだろう。
8首目、友人でも恋人でもなく「ピザ屋」なのが皮肉が効いている。
9首目、永遠に続く青春みたいな時間。現実の夏は終ってしまうが。
10首目、浴室は一人になる空間。岡井隆の私性の定義を思い出す。
他に、連作「戦争で死んだ祖父は広島カープを知らない」が印象に残った。枕詞や広島の野球選手の名をたくさん盛り込みながら、戦争や広島について考えさせる内容になっている。
2023年9月10日、私家版、900円。