第7歌集。タイトルの読みは「てんがいてんがい」。
夫を亡くした痛手から少しずつ心を立て直していく時期の歌。
男びな女びな流されてゆくあはれさの藁の粗目が水かぶりゐつ
多摩川の水釣るごとくゆつくりと糸引き寄する春の釣りびと
まひまひは負ふ家さへも涼しげに海鳴りきこゆる石塀をゆく
蟬を追ふ尾長も追はるる蟬も鳴き鋭かりけり八月の空
木造の輪島高校なくなりてプールの位置のみ変はらずにあり
新しき靴をはきたるよろこびは有楽町へと吾(あ)を向かはしむ
草花の虫喰ひさへも描き加ふ加賀友禅の意匠の写実
七人の団欒ありし食卓は川を流れていづこにゆきし
いづくより吸ひあげきたる水ならむ赤き西瓜はただに悲しき
かなかなのかなかなかなのかなしさよ絶ゆることなき詠嘆の助詞
1首目、流し雛は徐々に水に濡れたりしながら川を遠ざかっていく。
2首目、魚ではなく「水釣るごとく」がいい。のどかな春の光景だ。
3首目、何も持たず自分の力だけで堂々と生きている姿の清々しさ。
4首目、夏空に繰り広げられる空中戦。両者とも生きるために必死。
5首目、作者の出身校なのだろう。プールの場所だけが昔のままだ。
6首目、心が明るくなってショッピングや映画を楽しんだのだろう。
7首目、虫喰いを汚いものと捉えずにデザインとして活用している。
8首目、賑やかな食事風景はいつの間にか消えて一人になっている。
9首目、西瓜の果肉の鮮やかな赤さはどこから生まれたものなのか。
10首目、言葉遊びが印象的。ヒグラシの鳴き声がいつまでも続く。
2007年10月29日、角川書店、2667円。