「サンデー毎日」1976年新年号から17回にわたって連載された聞き書きを一冊にまとめたもの。1996年に毎日新聞社より刊行された単行本が、「男はつらいよ」50周年記念に復刊された。
生い立ち、不良少年時代、浅草でのコメディアン時代、結核による療養生活、テレビや映画への出演、アフリカ旅行、「男はつらいよ」の誕生など、自らの半生について率直に話している。
木枯らしの吹く寒い夜なんか、四角い顔(つまりわたくしでございます)と丸い顔(関やん)が、四隅に重しをつけた風呂敷みたいなそんな掛けブトンを掛けて、まるでプロレスやってるような格好で抱き合ったまま寝ます。
わたくし、療養所で二年ぐらい過ごしたことになりますが、その間、ずっと医療保護と生活保護を受けておりました。ですから、わたくし、国からお借りしたその分をいま、せっせとお返ししているつもりなんでございます。
野生の動物といえば、ずいぶんいろんなヤツを見ました。しかし、数いる動物の中で、すばらしい造形の妙をそなえているのは、やっぱり、サイでございますよ。あれは自然の産物ではなくて、たとえば鉄工所なんてとこで人工的に作ったものではないかという気がいたしました。
大体、花火というやつは打ち上げられてみて初めて、夜空に美しく咲いたかどうかわかるように、役者もまた演じてみて初めて、お客がそれをどう受け止めたかがわかるものではないでしょうか。
全篇、寅さん口調でユーモラスに楽しく語っているのだけれど、ところどころにコワさや厳しさが顔を覗かせる。戦後の焼け跡風景と右肺摘出の闘病生活は、渥美清の人生観に大きな影響を与えたようだ。
2019年8月5日、毎日新聞出版、1400円。