日本人の父と台湾人の母を持つ主人公の桃嘉を中心に、台湾と日本にまたがる女三代の生き方を描いた小説。織田作之助賞受賞作。
主人公と母との会話の中で意味の通じない日本語がしばしば出てくる。「上げ膳据え膳」「出願」「本末転倒」などは、元の言葉が難しいから仕方がない。また、「就活」も略語なので難しい。
一方で「おあずけ」は簡単な言葉だが、「預ける」の意味でなく「待たせる」という意味になるので、文脈を理解しないとわからない。こういう言葉こそネイティブでない人には大きな障害になるのだろう。
言葉が理解できないことはコミュニケーションの妨げになる。一方でそれは、言葉が通じるからといって必ずしも心が通じるわけではないことも浮き彫りにする。
祖母が母に言った言葉が心に残る。
「だれといても、どこにいても、自分のいちばん近くにいるのは自分自身なのよ。だからね秀雪、だれよりもあなたがあなた自身のことをいちばん思いやってあげなくては」
昨年エッセイ集『台湾生まれ日本語育ち』を読んだ時に購入してしばらく積ん読になっていた本だが、今回読めてとても良かった。やはり読書はタイミングが大切で、今の私に必要な本だったのだと思う。
2020年8月25日、中央公論新社、1850円。