2014年から2022年の作品を収めた第1歌集。
かなしいね人体模型とおそろいの場所に臓器をかかえて秋は
撃鉄を起こすシーンのゆっくりと喉をつばめが墜ちてくかんじ
わたしは塩、きみを砂糖にたとえつつ小瓶と壺を両手ではこぶ
ベランダにタオルは風のなすがまま会えないときもきみとの日々だ
橋をゆくときには橋を意識せずあとからそれをおもいだすのみ
ごめんねのかたちに口をうごかせば声もつづいて秋の食卓
裏庭をもたないだろう一生に自分のためのボルヘスを読む
あやうさはひとをきれいにみせるから木洩れ日で穴だらけの腕だ
白いシャツはためきながら歩くとき腕はこの世をはかるものさし
胸あたりまでブランケットをかぶっても怒りがからだを操っている
1首目、人間と人体模型の関係が転倒していてアンドロイドみたい。
2首目、下句の比喩が個性的。緊迫した場面で息を飲む様子だろう。
3首目、容器の形は違うけれどどちらも白い粒同士のペア感が強い。
4首目、下句の断言が力強い相聞歌。タオルに心情を投影している。
5首目、時が経ち全体を俯瞰できるようになって気づくこともある。
6首目、口の動きと声との微妙なずれに、心と言葉の乖離を感じる。
7首目、上句が面白い。ある程度の広さの一軒家にしか裏庭はない。
8首目、まだらな光の様子を穴に喩えた。美しさと危うさは紙一重。
9首目、下句の箴言調がいい。剝き出しの腕が風を受けている感触。
10首目、コントロールできない怒りに感情を掻き乱されてしまう。
2023年3月22日、書肆侃侃房、2000円。